東武鉄道とJRの特急相互乗り入れ

発表以来話題になっています。
特に鉄道マニアの間で大騒ぎされている理由は、東武とJR(国鉄)が、特に日光方面に関しては数十年来に亘るライバル関係だったからなのです。
戦いの歴史は戦後すぐに始まります。
世界的に著名だった観光地・日光に対し、互いに優等列車を走らせ始めたのです。まだ蒸気機関車が当たり前だった頃に、当時としては画期的な俊足さを誇る気動車国鉄が投入、それに対して豪華な特急電車を東武が投入して対抗、国鉄はさらに対抗して、準急列車(以前あった種別で、急行より下のクラス。安価ながら特別料金が必要だった。このころ国鉄の特急は文字通り特別な存在だった)に特急並みの豪華車を投入。慌てた東武がそれよりもさらにハイグレードな特急電車を作り(有名な1720系DRC...座席は全て国鉄1等車なみ、ビュッフェやサロン室までも備える超豪華列車)、国鉄に止めを刺した、という経緯があったんです。
それが手を繋ぐ時代です。両者の戦いを知るものなら、誰もが驚きます。

しかし冷静に考えると、今回の相互乗り入れは確かにそうなって然るべき、いいアイデアなんですよね。
まず前提として、日光方面に対する鉄道輸送、しいては日光自体の観光客減少があります。観光客が減っている上、観光客は大部分が車で行ってしまう時代です。それに対し、なんとか減少する特急利用客を増やしたい思惑や、数年前より日光方面に力を入れなおそうと手を改めてきたJRの思惑が一致したというわけです。
東武は従来、浅草始発でした。浅草は立地的に悪くないですが、交通の要所としての地位は劣ります。特急に乗る客が、わざわざ上野や新宿・池袋から浅草まで地下鉄で移動しなければいけません。これがネックになっていました。
新宿の地位は以前に比べて大幅に高まっているそうです。その新宿に日光行きの特急が入れれば、利便性工場で利用客大幅増の夢も出てきます。成田エクスプレスを使ってきた外国人観光客にとっても便利です。また線路条件の良い宇都宮線を使うことでスピードアップも図れます。東武線は常に過密なのです。
またJRにとっては、日光方面へ力を入れてきた集大成となります。自前にも日光線がありますが、単線の上にどうしても大回りとなってしまい、スピードでは東武に勝てません。また特急が新宿から出ることで、自社線内での運賃収入もあります。

というわけで、思わず膝を打つ今回の発表でした。

趣味的に観れば、さらに面白いことがあります。赤羽-大宮間や、有名な東大宮-蓮田の撮影地で東武特急「スペーシア」が見られること、大宮では東武野田線東武特急の並走が観られるかも知れないこと、東武線でJRの恐らく183系が見られるかも知れないこと。スペーシアにJRアンテナが載るのか、183系に東武のブーメランアンテナが載るのか、等といった興味がつきません。

それにしても、今回のことといい、数ヶ月前に発表された相模鉄道との相互乗り入れの検討といい、ずいぶん私鉄と関係を持とうとしているなぁというか、その方面への利用客を増やすためなら、自社線や私鉄線の枠を越えて、より高い視野から物を見ようとしているというか、今のJR東日本にはいままでにない本気を感じます。